【ヒットの法則188】メルセデス・ベンツ S65 AMG ロング(W221型)はAMGのあり方を鮮明に提示した

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【ヒットの法則188】メルセデス・ベンツ S65 AMG ロング(W221型)はAMGのあり方を鮮明に提示した

2005年のフランクフルトモーターショーでデビューし、日本では2005年10月より販売を開始した5代目メルセデス・ベンツ Sクラス(W221型)。その最上級モデルとして、2006年5月にはメルセデス・ベンツ S65 AMG ロングが日本上陸を果たしている。折しも、ドイツ本国では100%AMGオリジナル開発による高回転型V8ユニット「63シリーズ」が登場し大きな注目を集めていた。では、当時AMGラインアップの頂点にあった、この12気筒ツインターボエンジン搭載モデルはどんな個性を放っていたのか、当時の試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年6月号より)

【写真】スタイリング全体やV12エンジン、インパネなどを見る(全6枚)

「東京都心ではAMGの個人タクシーを見かけますが、それについて何か意見はありませんか?」

AMG代表であるフォルカー・モルヒンヴェーク氏にそんな少々不躾な質問をしてみたが、それに対して返ってきた答えはちょっと意外なものだった。

「タクシーねぇ。お使い頂けるのはありがたいんですが、でも本来ウチの製品はそういう用途に適したものではないんですノノ」――実は、こんな回答を予想していたのだ。自らが精魂込めて仕上げたこだわりある製品を「営業車」として使われることに対して、ちょっとばかりの不快感を表すのではないかノノ。それは半ばそんなネガティブな回答を期待して、少々いじわるな質問をぶつけたつもりでもあった。

しかし、そんな予想に反してモルヒンヴェーク氏が即座に口にしたのは、「凄い! 素晴らしい!!」という言葉。不快どころか、心底嬉しそうにそう語る氏の表情に、それは決して社交辞令ではないという印象を抱かざるを得なくなった。

こうしたコメントからも推測できるのは、今のAMGが理想とするクルマづくりが必ずしもコンペティティブでスパルタンな方向ばかりには限られていないという事実だ。もはや「速さ」でオリジナルのメルセデス・ベンツを凌ぐエクスクルーシブ性を表現するのは当然。その上で、さらに充実した装備やゴージャスな雰囲気を売り物にするというのも、今やAMG社のクルマづくりにおける立派なフィロソフィーのひとつであるに違いない。

そんな現在のこのブランドの狙いどころを理解した上で目にすると、新型Sクラスに初めて投入されたAMGバージョン=S65AMGというのはすこぶるわかりやすい存在だ。

ベースとなるボディに全長が5.2mを超える『ロング』仕様を敢えて選択したのも、6Lの12気筒というすでに過剰なスペックを備えるエンジンに、さらに2基のターボチャージャーを与えて武装し、その結果600psをはるかに超えるという、どう好意的に解釈しても(特に2輪駆動車では)「ありあまる」としか表現のできない最高出力を身につけたのも、すべてはAMGイズムを最上級のレベルで達成させたかったゆえのことだろう。

『アーマーゲー』なる誤った呼び方が日本を席巻していたひと昔前の、あの派手ないでたちこそが最大の特徴と思えたAMGに較べると、昨今のモデルのドレスアップぶりは誰に対してもさほどの抵抗感を抱かせないもの。これも、このS65AMGにもそのまま当てはまる。

「世界で最もパワフルな量販サルーン」と自らを紹介するS65AMGだが、そのエクステリアに施された化粧のほどはさほどに分厚いものではない。

むろん、細身の5本スポークホイールに組み合わされたファットな19インチのタイヤや、リアエンドに4本出しされたテールパイプなどから、見る人が見ればそれがとんでもなくハイパフォーマンスな動力性能の持ち主という察しはつくだろう。が、ボディパネルそのものには手を加えられていないし、「F1マシンのノーズコーンにヒントを得た」とされるこれも最近のAMG車に共通するイメージのフロントバンパーも、ことさらの押し出し感を強調しているようには思えない。リアビューもパンパー下部にこそディフューザー調のテイストが与えられるものの、トランクリッドにはスポイラーも存在しない。

アメリカ、ドイツ、そして日本市場を中心に販売台数が成長を続けているという背景には、こうして多くの人に抵抗感を抱かせないルックスを用いている効果も大きいはずだ。実際、S65AMGのルックスも、たとえ「一番上等なSクラスを持ってこい」的な買われ方をしてもさほど無理なくそうした要求に溶け込んでくれそうだ。

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