スパガの曲調と歌声にアイドル全盛時代の郷愁を感じた――近田春夫の考えるヒット

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スパガの曲調と歌声にアイドル全盛時代の郷愁を感じた――近田春夫の考えるヒット

『忘れ桜』(SUPER☆GiRLS)/『卒業』(コブクロ)

 いってみれば、まさにこの季節の“定番商品”だった訳である。それがここ数年、いっときほどには勢いの感じられぬようになってきている風にも思えてならないのは、ひょっとして私だけなのかな? いやなに“サクラもの”の話なのだが、このSUPER☆GiRLSが歌う『忘れ桜』の曲題には目がいった。てかこれ誰もjpopとは思わないですよね? 読みは絶対「わすれざくら」でしょう。久々に風情のある、演歌らしいタイトルに出逢えた気がした(笑)。

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 とかなんとか、与太を飛ばすのもそのぐらいにして、さて聴いてみるといくつか感じたこともあった。思いつくままにつらつら書いていこう。

 いつものように、iPhoneで動画再生を始めると、カデンツァっぽいピアノ(ひょっとしてこの部分は映像のためだけに加えられているのかも)が四つ打ち風なビートに移行していくイントロから、先ず耳に残ったのがキックの音色である。ズッシリと重いのではなく、コンコンという響き。中域が強調されているのだろうか? おかげさまで小さなiPhoneのスピーカーでも大層聴きとり易いのだが、そのあたりに配慮して音作りがなされているのかどうかは、不明だ。

 さて、曲調自体は至って普通、いや、むしろ古めかしいぐらいだ。コード進行にしろメロディラインにしろ、少し前に何処かで聴いたようで、郷愁を誘うものがあるのだ。こうした“既聴感”は、昨今の他の女子アイドル楽曲にもうかがえるものではあるが、そんな傾向はいつから始まったのか? 断定はし辛いけれど、少なくともつんく全盛の頃のハロプロ作品などを思い起こせば、アイドルのヒット曲にも、色々な視点で、強気なところや、冒険するところはあったものだ。実験的/前衛的なチャレンジも少なからず散見された記憶がある。

 トレンドはもはやそこにはないということなのだろう。そういった意味では、ひねりのない、何よりわかりやすいものが好まれるのは、商業音楽に限ったことではない、娯楽全般を俯瞰してみても、なんとなく風潮としてあるのやもしれぬ。

 それはそれとして、先に触れた、曲調の懐かしさの話だが、やっぱルーツは小室哲哉なんだろうなぁと、だんだんそんな印象が強くなってきた。

 といって別に似たフレーズを見つけたとかではない。ひら歌からサビに移行した時に聴き手の気分を一気に花開かせる和声の用い方/展開に、TK――殊に初期の――が何故あそこまで売れたのか、ふと思い出させてくれるものがあったのである。

 そのこととはまた別に、彼女たちの声に思うものもあった。例えば松本伊代や工藤静香のように、妙にクセがあるのだ。昔のテレビの音楽番組の似合いそうな声だった。それも郷愁を呼ぶ一因だったのかもしれない。

 コブクロ。

 のっけのピアノソロに一瞬『忘れ桜』かと! いやマジ。

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。 近田 春夫/週刊文春 2020年4月9日号

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