カワムラユキ
誰かを待つ時間、あなたはどんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
この連載では、そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽を、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに毎回紹介していただきます。* * *
振り返れば虚ろな過去、未来を信じれば気力が持たずに
軟禁状態の部屋で寝転がって、渋谷スクランブル交差点のライブ映像をTVモニターで眺めてた
新調したばかりの青い絨毯の上には、コロナビールの空き瓶、空になったポテトチップスの袋
衝動買いしたヴェイパーウェイブのカラーバイナルは、一度だけ針をおとしてそのままに
友達から引越し祝いとして贈られたガジュマルは、いつの間にか乾いている
この世界中で今、心から平穏を感じられている人は全くいないはず
来るな来るなと抑制されて、出るな出るなと封じ込められて
出口のない呪いをかけられたような春、異常な肉体の活力は行き場を失い、自傷に向かいつつも
一向に蘇生しない本能には起爆剤が必要か、それとも生き方を変えるか
悶々と思い悩むから、ニュースを消した、スマホを閉じた
その病は脳を支配する
確実に体だけじゃなく、君や僕の行動の何もかもを、そして何より距離(ディスタンス)が
二人で意識の中だけでも、離脱して逃げ出そう
時空を越えて、粘膜が湾曲するように、レコードの中で生温い冷や汗を
その小さな塊にさらわれてしまえばいい
音の渦に飲み込まれて、漆黒の闇の最中で我を失うの
この部屋さえ出なければ、ここは解放区、Studio 54、もっと生きたいって思わせて
TVモニターを1981年のニューヨーク、もしくは92年のゴア、98年のIBIZA、好きな所へ
いつか解き放たれる日まで、今はエスケイプしていよう
吉田美奈子『MONSTERS IN TOWN』Sony Music Direct、2004年
■カワムラユキ
1978年8月東京生まれ、幼少期を仙台で過ごす。 98年頃よりフリーランスのプロデューサーとして、ヨーロッパのダンス・ミュージックのプロモート、様々な企業とのコラボレーションワーク、イベント制作を担当。 2000年頃よりDJ、ライターとしての活動をスタート。 DJ活動の傍らでスペインのIBIZA島などヨーロッパ各国を周遊しながら、ダンス・ミュージックに限らず、リラックスに特化した「Chill Out(チルアウト)」空間での音楽演出など、独自の活動を探求する。 2008年からは作詞家として「NARUTO」「バクマン。」「鷹の爪」などのアニメ主題歌、NHK WORLD「domobics」(東京パフォーマンスドール+どーもくん)、水曜日のカンパネラとのコラボ作品「金曜日の花魁」、多くのアーティストにカバーされたSam Smithのグラミー賞受賞曲「Stay With Me~そばにいてほしい」などの日本語詞を担当。 2010年には渋谷道玄坂にて、ウォームアップ・バー「しぶや花魁 shibuya OIRAN」をオープン。店舗運営と連動して、自身が主宰するミュージック・ブランド「OIRAN MUSIC」を2014年に発足。コンピレーションCDのリリース、リミックス・ワークの配信、アートや音楽フェスとのコラボなど、「渋谷」をキーワードとしたコンテンツ提供を活発に行っている。 現在、渋谷区のコミュニティFM「渋谷のラジオ」第一月曜16時~、インターネット・ラジオ「block.fm」毎週金曜20時~に、レギュラー番組の選曲とナビゲーターを担当中。 Twitter: @yukikawamura821 Instagram: @yukikawamura821 Web: OIRAN MUSIC公式サイト
来るな来るなと抑制されてー吉田美奈子『TOWN』|渋谷で君を待つ間に
引用元:幻冬舎plus
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