22歳で散った「女子プロレスの未来」木村花さん…思い出す1・4東京ドームでの9分4秒間の戦い【アイドル総合】

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引用元:スポーツ報知
22歳で散った「女子プロレスの未来」木村花さん…思い出す1・4東京ドームでの9分4秒間の戦い

 派手なピンク色に染めた髪に色鮮やかな七色のコスチュームに身を包んだ木村花さんの背中は、確かに、こわばって見えた。そして、公式データの身長164センチより、はるかに小さく見えた。

 今年1月4日、東京ドームに4万8人の大観衆を集めて行われたプロレス界最大のお祭り・新日本プロレス「WRESTLE KINGDOM14」。試合開始1時間前のことだった。東京ドームの通路で私は大きな目が印象的な木村さんの出番直前、緊張感がにじみ出た姿を目にした。

 この日の「第ゼロ試合」に組まれたのが、女子プロレス団体・スターダム所属の4選手によるタッグマッチ。昨年、株式会社ブシロードの傘下となった同団体は、新日も同じくブシロード傘下ということから、東京D初参戦となったのだった。

 出場した4人は、まさに選び抜かれたスターたち。昨年の女子プロレス大賞を受賞した岩谷麻優(27)、今月20日に以前から痛めていた首と頭部の負傷のため引退を表明したワンダー・オブ・スターダム王座保持者の星輝ありさ(24)のスターダム1期生タッグと激突したのが、昨年、他団体から電撃移籍したジュリア、そして、23日に22歳の若さで急死した木村さんだった。

 4万人以上を飲み込んだ会場は、まだ“温まりつつある”段階。試合自体も前座のような扱いだったが、4人は女子ならではのスピーディーで気合十分の戦いを披露。木村さんも得意技のミサイル・キックなどを披露したが、最後は岩谷のムーンサルトプレスの前に屈辱の3カウントを聞いた。

 試合時間は、わずか9分4秒。それでも、試合後の会見場で木村さんは「本当に夢のような時間でした」と汗まみれの顔でほほえんだ。

 そんな晴れ舞台から140日後の23日、木村さんは急逝した。Netflix(ネットフリックス)で先行配信され、昨年6月からはフジテレビオンデマンド(FOD)でも配信スタート、同年7月からはフジテレビ系地上波でも放送されている人気の恋愛リアリティー番組「TERRACE HOUSE TOKYO 2019―2020」(テラスハウス)に昨年9月から出演。キュートなルックスと歯に衣(きぬ)着せぬ発言で人気者になっていた。

 「テラスハウス」は東京のシェアハウスを舞台に男女6人の共同生活を描く番組。木村さんもネットフリックスの世界配信のおかげでプロレスの枠を超えた人気者となっていたが、3月31日に配信、地上波では今月18日深夜に放送されたばかりの第38話で事件は起こった。

 木村さんが東京D大会でも着用、「命と同じぐらい大事なもの」と言う10万円以上するコスチュームを入れていた洗濯機を男子メンバーが誤って操作。色あせ、縮んでしまったため、着られなくなる「コスチューム事件」が発生したのだ。

 この放送回で、木村さんは男性メンバーを強い言葉で叱責(しっせき)。かぶっていた帽子を手で払うなどの言動にSNS上での批判が殺到した。私も当該の放送回を見直したが、男性メンバーとの言い争いの中、木村さんが「一生懸命、死にものぐるいで骨まで折って、働いているヤツをなめんなって感じ」、「なんで黙っているんだよ。ふざけんなよ」などの強い言葉を放っていたのは事実だ。

 一方で涙ぐみながら「あのコスチュームで夢にも思ってなかった東京ドームのリングにも上がったし、タイトルマッチにも挑戦したし…」と、本音をみせていた女子レスラー。しかしネットが牙をむいた。

 放送後、木村さんのSNSには1日100件以上の罵詈(ばり)雑言の書き込みが殺到した。木村さんは23日未明に「愛しているよ」と愛猫と一緒の写真を投稿。画像の上には「愛してる、楽しく長生きしてね。ごめんね」と文字を乗せ、更新したストーリーズにも愛猫との別カットの写真に「さようなら。」という文字をかぶせていた。

 この書き込みにファンからの心配の声が集まった数時間後の急死。死因が公表されていない段階だけに無責任な分析は避けるが、私は木村さんの発言に多くの批判が集まっていた問題の第38話を地上波でも放送したテレビ局の姿勢には問題があったと思う。放送後、一気にヒール(悪役)となってしまった彼女の個人SNSが炎上する可能性は十分、考慮し、監視されるべきだったのではないだろうか。

 その死の理由にSNSでの罵詈雑言があったのかもしれない。ただ、木村さんの死の直後に仲間のレスラーたちがツイッターなどに書き込んだコメント。中野たむの「この世は地獄かよ」、中邑真輔(40)の「狂ってる」、KENTA(39)の「言葉は時として人を傷つける武器にもなる」などの言葉の数々にこそ真実はあると思う。

 思えば、1・4東京Dでの木村さんの試合直前、私は懐かしい人と再会していた。新日のジャージーを着て、裏方として駆け回っていた下田美馬さん(49)だ。

 プロレス担当記者だった93年、各団体のアイドルレスラーを連続インタビューするコーナーを担当していた。全日本女子プロレスの豊田真奈美さん(49)、井上貴子さん(50)、ジャパン女子プロレスのキューティー鈴木さん(50)、尾崎魔弓さん(51)ら。当時、アイドル顔負けのルックスで人気だった福岡晶さん(49)と隣り合わせに座ってもらって話を聞いたプラム麻里子さんは、その4年後、リング上での事故のため、29歳の若さで亡くなった。

 どの選手もリング上の荒々しい戦いぶりとは裏腹の、おとなしくてシャイな素顔が印象的だった。中でも“お嬢様感”が強かった下田さんとの27年ぶりの再会に私は「昔、インタビューした報知の記者です。お元気そうで…」と話しかけた。

 そんな私に下田さんは「私、まだ(メキシコの団体・CMLLで)現役なんですよ」と笑った後、「あの子たちの試合、ちゃんと書いて下さいね」と、緊張感もあらわに待機している木村さんたちの方を見ながら言った。

 そう、次世代のスターの死が打ち砕いたのは、下田さんたち先輩レスラーの希望でもあった。その死の直後に新日の「エース」棚橋弘至(43)も自身のツイッターで「スター性があって、人を引きつける。間違いなく女子プロレスの未来を背負う選手だった」と書き込み、早過ぎる死を悼んだ。

 全米にも配信中の「テラスハウス」で人気者になった木村さんには、その抜群のスター性からアスカ(38)、カイリ・セイン(31)らに続く近未来の日本マットから米トップ団体・WWE入りへの道も開けていたと、私は思う。

 しかし、夢は散った。「女子プロレスの未来」の急死に、今は、ただこう思って自分の喪失感を埋めるしかないのかも知れない。夢と将来性にあふれていた22歳は、誰もが夢見る東京ドームの大舞台での9分4秒の戦いで、その青春のすべてを燃焼させ、花のように散ったのだと―。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆木村 花(きむら・はな)1997年9月3日、横浜市出身。元女子プロレスラー・木村響子さんの長女として幼少期からプロレスに親しみ、2015年にプロレス総合学院に1期生として入学。16年3月30日にデビュー。第12代ゴッデス・オブ・スターダム、第10、19代アーティスト・オブ・スターダム、JWP認定ジュニア&POPなどのタイトルを獲得。得意技はビッグ・ブーツ、ミサイル・キック。164センチ、58キロ。 報知新聞社

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