君とは共有できない僕だけの音像ーLULU, okkaaa『LIQUID』|渋谷で君を待つ間に

[AdSense2]

引用元:幻冬舎plus
君とは共有できない僕だけの音像ーLULU, okkaaa『LIQUID』|渋谷で君を待つ間に

カワムラユキ

誰かを待つ時間、あなたはどんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
この連載では、そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽を、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに毎回紹介していただきます。*   *   *

 

粉々に飛び散った漢方薬をテーブルに残して、水滴が張り付いたバスルームの壁から

ドアの鍵は甘く掛けたままで、シワシワのヴィニール袋に密閉するSmartphoneからの微音を流す 

 

旅先のホテルで早朝に録音した雑音、親友が飼う小動物の不気味な鳴き声

訪れるつもりはなかったレイヴの帰りに寄った森、車の後部座席に座っていた見知らぬ女が開けた缶ビールの音

 

レコーダーからDropboxに転送してランダムに聞き盛っている

君とは共有できない僕だけの音像、上昇する湿度と静かな興奮は、感覚に描いた孤独の御馳走

ひとりである、ひとりであるべきのタイムレスな瞬間

 

テーブルの片隅に置き去りにしたパウダーは、今頃は空気清浄機の弱風に吹き飛ばされているかもしれない

運命とは宿命でもなく、ただそこにサワサワと時の風が吹くということ?

 

森の音が平坦な反復を繰り返して、風と鳥と無数の草の気配

金属や漆器、シルクや鉄、忌々しい迷いなど感じられない、感じるはずもない

略すのならフェティッシュ、屈折した独自の興奮として、興奮の湿度は適当に配慮して

 

表参道の交差点から繋がるビル、地下へと続く急勾配の階段

恐る恐る時間をかけて降りた 野蛮に転がされる不運へと誘われぬように

Smartphoneのカメラレンズには薄イエローのシールが貼られて、君も記憶の保持から解放された

世界の外へと、完璧な世界の外側へと

 

体中にへばり付いていた常識の電磁波が、みるみると脱げてゆく、無色透明に蒸発して

心の抜け殻はトイレから流して 再び汚れた体に還ってくるはずもなく、裸になる

 

毛根の端まで染み付いた煙草の香りと、ループする無限の電子音

あの記憶の森の中で彷徨った君と僕の直感が、あらゆる拘束から解放されて抱き合う

 

今ここにあるものは、これだけでいいから

他には何もいらない、タイミングとタイミングのシンクロニシティーだけで息をさせて

 

 

LULU, okkaaa『LIQUID』2019年

■カワムラユキ
1978年8月東京生まれ、幼少期を仙台で過ごす。 98年頃よりフリーランスのプロデューサーとして、ヨーロッパのダンス・ミュージックのプロモート、様々な企業とのコラボレーションワーク、イベント制作を担当。 2000年頃よりDJ、ライターとしての活動をスタート。 DJ活動の傍らでスペインのIBIZA島などヨーロッパ各国を周遊しながら、ダンス・ミュージックに限らず、リラックスに特化した「Chill Out(チルアウト)」空間での音楽演出など、独自の活動を探求する。 2008年からは作詞家として「NARUTO」「バクマン。」「鷹の爪」などのアニメ主題歌、NHK WORLD「domobics」(東京パフォーマンスドール+どーもくん)、水曜日のカンパネラとのコラボ作品「金曜日の花魁」、多くのアーティストにカバーされたSam Smithのグラミー賞受賞曲「Stay With Me~そばにいてほしい」などの日本語詞を担当。 2010年には渋谷道玄坂にて、ウォームアップ・バー「しぶや花魁 shibuya OIRAN」をオープン。店舗運営と連動して、自身が主宰するミュージック・ブランド「OIRAN MUSIC」を2014年に発足。コンピレーションCDのリリース、リミックス・ワークの配信、アートや音楽フェスとのコラボなど、「渋谷」をキーワードとしたコンテンツ提供を活発に行っている。 現在、渋谷区のコミュニティFM「渋谷のラジオ」第一月曜16時~、インターネット・ラジオ「block.fm」毎週金曜20時~に、レギュラー番組の選曲とナビゲーターを担当中。 Twitter: @yukikawamura821 Instagram: @yukikawamura821 Web: OIRAN MUSIC公式サイト

コメント

タイトルとURLをコピーしました