007の外しの美学 ボンド、英国紳士の装いに「遊び」

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引用元:NIKKEI STYLE
007の外しの美学 ボンド、英国紳士の装いに「遊び」

 19世紀の英国からフランスへと広がったダンディズムとは、表面的なおしゃれとは異なる、洗練された身だしなみや教養、生活様式へのこだわりを表します。服飾評論家、出石尚三氏が、著名人の奥深いダンディズムについて考察します。

【写真はこちら】ダンディズム おくのほそ道 007の外しの美学

■着るものに凝った作者のイアン・フレミング

 映画「007」シリーズ25作目「ノー・タイム・トゥ・ダイ」が11月にも公開予定です。これまでジェームズ・ボンド役を演じた俳優はショーン・コネリーからダニエル・クレイグまで数えて6人。それぞれの俳優が、原作者である英国の作家、イアン・フレミングが描くところのボンド像を個性豊かに演じてきました。

 ご存じ「007」は英国諜報(ちょうほう)部員。殺人許可書を持っているという設定です。いわゆる「大人のおとぎ話」であり、映画化されるや大ヒットシリーズとなりました。そして、「007」のファンはそれぞれ、歴代ボンドの中にご贔屓(ひいき)の俳優がいるらしい。中でも「絶対、ショーン・コネリー!」という向きが多いといわれます。

 ショーン・コネリーは1930年にスコットランドで生まれました。2020年は生誕90年ということになります。映画「007」の第1作は、1962年に公開された「ドクター・ノオ」。監督はテレンス・ヤングでした。テレンス・ヤング監督はほとんど無名だったショーン・コネリーに演技を教え、それ以上に熱心に服の着こなしを教えました。

 小説の中のジェームズ・ボンドはなかなかの洒落(しゃれ)者として描かれています。それもそのはず。おしゃれに関しては、作者のイアン・フレミング自身がただ者ではなかったからです。実際の彼は、一般の英国人からすれば、ちょっと嫌みに感じるほど着るものに凝るたちでしたので。

 イアン・フレミングは常に、水玉のボウタイ(蝶ネクタイ)を好みました。また、しばしばターンバック・カフのスーツを着ました。ターンバック・カフとは、上着の袖口に折り返しのあるデザインのことです。

 水玉のボウタイも、折り返しのあるターンバックカフも、上流階級の好みなのです。イアン・フレミングは、英国の中流としてはいささか気障(きざ)で、いささか高級品好みのお方だったのです。簡単にいえば、「上流気取り」、スノッブだったのです。貴族でもないのに貴族風を好むのが、スノッブ。少なくとも小説の「007」には、スノッブの匂いが濃厚であります。

「ひげを剃(そ)り、シー・アイランド木綿の濃紺の袖なしシャツと、ネーヴィ・ブルーのトロピカルのズボンをはいてから……」

 イアン・フレミング著の「ロシアから愛をこめて」(井上一夫訳)の一節に、このような表現があります。

 ジェームズ・ボンドがシーアイランド・コットンのシャツを好むのは、ファンの間ではよく知られていることでしょう。

 シーアイランドはアメリカ北部の地名。この地で採れる綿花からは上質の綿糸が生まれることになっています。その繊維の長さは、平均でも4センチ、長いものでは5センチに達します。繊維は一般に細くて長い糸が珍重されるのです。シーアイランド・コットンで300番手くらいに紡げば、ほとんどシルクを思わせる生地になるほど上質です。

 ジェームズ・ボンドがシーアイランド・コットンのシャツを愛用していたということは、下着なしで、直接肌の上にシャツを着ていたと考えるべきでしょう。それくらいに肌ざわりが優れているのですから。

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